どんな遊びでもスポーツでも同じだとは思いますが、スケボーも上達すればするほど楽しい遊びです。でも、上手い人だけが楽しい勝ち負けの世界ではありません。
板に乗るのが精一杯の状態からオーリーで障害物を飛び越えるまでは、沢山の練習と挫折があります。そして、オーリーを覚えてからも、スケボーは簡単にはなってくれません。でも、それはどんどん難易度があがって、クリアするのが無理というようなクソゲーみたいな難しさではなく、言い換えるなら、「奥が深くなる」と表現したほうが良いかもしれません。
スケボーというのは、滑っているスケーターだけで成り立っている文化ではありません。
プロスケーター、アマチュアスケーター、ブランド、チーム、アーティスト、デザイナー、ショップ、フォトグラファーなどなど、多くの人間の才能や好奇心が集まって一つの文化になっています。スケボーは上手くないと楽しめないような浅い遊びではないし、トリックのスキル以外でも、スケボーを通して自分を表現する事が出来る奥が深い文化です。
なかでも、他のスポーツや遊びと比べて、遥かに進んでいる要素が、
「映像」
です。スケーターの滑りを撮影し、編集し、公開する。今では、YouTubeなどで一般の素人が普通に自分達の撮影した映像を発表していますが、スケーターはそれをインターネットが無い時代から普通にしています。映像に関してはズブの素人が、ビデオカメラで友人のスケーターを撮影し、「こんなにカッコイイスケーターがいるぞー!」と世に送り出す。こういう行為がごく自然に、プロ、アマ問わず毎日行われているのが、スケートボードです。
スケートボードは、映像がとても重要な文化。スケボーを撮影する人間のことを、こんな風に呼びます。
「スケートボードフィルマー」
フィルムに収める人なので、フィルマーと呼びます。きっとどこの地方にもスケボーを撮影するのが大好きなフィルマーがいるはずです。自分よりも、スケーターをカッコ良く撮影することに命をかけるニクい演出が出来る人間の事ですね。
前置きが長くなってしまいました。今回のコラムはいつもとは趣向を変えて、僕が住む富山県を代表するスケートボードフィルマー、中川 龍介のインタビューをお送りしたいと思います。
日本一周のついでに撮影
Q : 2011年の12月にリリースしたスケートボードDVD「FAR OUT」は、どれくらいの期間撮影した作品ですか?
中川龍介(以下R) 「2008年に撮影をスタートして、2011年の冬までなので、発売ギリギリまで撮影していました。」
Q : どういったキッカケで日本一周を?
R 「とにかく日本一周をしておきたいという思いがあって。それで、ついでに日本各地のスケーターを撮影してみようかなーと。移動は全て車でした。48都道府県全て回りました。日本一周中に一度だけ、妹の結婚式の為に富山に帰りましたが、それ以外は、ずっと移動と撮影を繰り返していました。」
Q : 日本一周スケボーフィルミングの旅に欠かせないアイテムがあると聞いたのですが?
R 「車中泊で欠かせなかったのが、日本酒です。車の中ではすごく寝づらいので、寝酒としての日本酒が欠かせませんでした。あとは、・・・・(続く)」
アナログ人間なので・・・
R 「(続き)あとは、やっぱりカメラですね。今は、SONYのVX2000というカメラを2台使っています。」
Q : SONY VX2000は、スケートボード撮影には定番のカメラですね。今だとフルデジタルのカメラが主流になってきていて、アメリカの名フィルマーのDan Wolfe(ダン・ウォルフ)なんかも、「もう、テープには戻れない」って言ってたりするけど。これからもテープで撮影?
R 「そうですね。ハイテクが使えないアナログ人間なので、テープで行こうと思っています。編集なんかも、ソフトのエフェクトを全く使えないし、スケートボードの映像は滑りが見やすく繋がっているのが良いという考えなので、編集もシンプルにやっています。」
Q : 確かに、FAR OUTはかなり硬派な編集というか、滑りをシンプルに見せていますね。FAR OUTのテーマはあったりしますか?
R 「テーマは、パークの映像を使わないということですね。ストリートオンリーで。日本一周中には、パークでも撮影したんですが、今回は使いませんでした。」
Q : 日本一周中に起きた珍事件とかはありますか?
R 「お台場で友達と待ち合わせしていた時に、警官に車を囲まれて所持品検査をされた事ですね。持ち物はもちろん、車の中も全部調べられました。前の日に、富山ナンバーの別の車から薬物が発見されたとかで、自分も富山ナンバーだから疑われたみたいでした。しかもその時、自分もヒゲはボサボサだし、服装も汚いしで、疑われる見た目をしていたと思います。あれは、ビックリしました。」
田舎のスケートシーンが好き Q : 全国で一番スケートしたら楽しいと思った街は?
R 「楽しいという事で言えば、東京は別格でした。スポットも多いし、オフィス街の絵になる感じは、他にはないですね。でも、僕個人の思いとしては、田舎にいる渋いスケーターやスタイルが好きだし、それを撮影したいという思いが強いですね。田んぼや瓦屋根とスケボーの組み合わせは、海外のスケーターが見るとかなり異色らしいと聞いて。だから、そういうのをカッコ良く撮っていきたいですね。」
Q : 一番印象に残ったスポットはありますか?
R 「地方では、岩手県が面白かったですね。岩手駅前に、大小のピラミッドが乱立しているスポットがあって、見た瞬間あがりました。地方はやっぱり面白いです。」
Q : 今回、沢山のスケーターを撮影したと思うのですが、特に印象に残ったスケーターはいますか?
R 「石川県の寺西 将吾ですね。なんていうか、フワフワとした浮遊感があって。あと、着地の時にそろう両足とか、完璧にクリーンなスタイルじゃないのが、人と違っていてすごくカッコイイと思いました。」
バックパックに詰まった2台のカメラ。 スポットもスケーターも個性を大事にするのが中川龍介の撮り方のようです。そんな彼も強い影響を受けて、ここまでスケボー、フィルマーを続けています。
まだスケボー始めたての頃に Q : 好きなフィルマー、影響を受けたフィルマーはいますか?
R 「NIGHT PROWLER(ナイトプローラー)を作った、南 勝巳さんですね。昔、自分がまだスケボーを始めたての頃に、富山に東京から上手いスケーターが来てると聞いて見に行った時に、トラックに鈴をつけているスケーターがいて、それが南 勝巳さんなんですけど、えー?鈴つけてるー!って思って。変わってるけど、なんてカッコイイスケーターがいるんだーって思いました。
だから、NIGHT PROWLERという作品にも影響を受けました。で、FAR OUTが発売されてしばらくした時に、南 勝巳さんがTWITTERで、FAR OUTの事を呟いててくれて、めちゃくちゃアガリました。」
地元富山に思うこと Q : 日本一周した後に思う、富山のスケートシーンについては?
R 「富山のスケーターは、良い意味で出しゃばらないというか。でも、悪い意味でアクションが少ないという感じです。スキルはあるんだけど、自分から撮影してくれって言ってくるスケーターが少ないですね。」
Q : 富山のスケートシーンは今後どうなっていって欲しいですか?
R 「数年前に富山のスケーターがいつも集まっていたスケートパークがなくなってしまって以来、それぞれは滑っていて、活動しているけど、なかなか一つになって動けないというのが少し寂しいですね。新しいパークの計画もあるので、何かをキッカケに富山のスケートシーンが盛り上がって欲しいと思っています。」
Q : 次回作の予定はありますか?
R 「2013年には次のDVDをリリースしたいと思っています。4年とかの期間になると、スケーターのスタイルも変わっちゃうし、スケートボード全体の動きもすごく早いので、今回のFAR OUTよりも時間は短くなっても良いから、コンスタントに映像、スタイル、スポットを発表していきたいです。」
まとめ:スケボーは、長く、深く楽しもう インタビューを受けるのなんて多分初めての事だと思うので、大丈夫かな?と心配しましたが、始まってみるといつも通りの龍介らしく、スケボーへの熱い思いを語ってくれました。
彼の素晴らしい所は、DVDを作った自分がスゴいという感じじゃなくて、「ここはもっとキレイに撮影出来た。」とか「コイツはもっと時間作って撮影してあげたいスケーターですねー。」という感じで、スケーター中心に考えている所です。どうしても自分の作品だから、自分の色がどんどん出てきてしまうと思うけど、それを出来るだけなくして、シンプルに滑りを伝えることに徹しているのが、硬派でカッコイイですね。彼の活動を見ていると、スケボーは30歳、40歳を過ぎてオッサンになっても、自分の好きな事、得意な事で、仲間と価値を共有しながら楽しめる遊びなんだなーと実感出来ます。
また、富山のスケートシーンの所では、ショップをやっている自分自身も色々と気付かされる意見があったので、インターネットでの発信だけではなく、地元に根ざしたローカルスケボーショップの事もしっかりと考えて行かなくては、と思います。
常に田舎のスケートシーンにアンテナを張っている龍介のことなので、もしかしたらあなたの街でSONYのカメラ片手にスケーターを追いかける彼の姿を見ることが出来るかもしれません。その時は、「DVD見たよ!」と言えば何かおごってくれるかも?
中川龍介撮影・編集の注目のスケボーDVD「FAR OUT」の商品ページへ